那覇とパリ

一般的にはあまりつながりのないふたつの都市だが、 

僕にとってはどちらも昔から関わりの深い街である。 
時を越えて旅のスタイルは変わってきたが、今も毎年訪れている。 
僕が初めて沖縄に行ったのは今から30年以上前で、 
もう本土に復帰はしていたが、車はまだ右側を走っていた。 
那覇の港に着いた時の空気の熱さと太陽の眩しさは今でも憶えている。 
僕はまだ学生で、那覇を拠点に本島周辺の島々、 
あるいは八重山まで足を延ばし、いつも数週間テントや民宿で過ごしていた。 
当時の僕は沖縄の美しい海や風景だけに魅力を感じていたのかもしれない。 
フランスと出会ったのは、その後お菓子の世界に入ってからで、 
Made in USAに憧れていた少年がいきなりヨーロッパの文化に触れてしまった。 
今までの価値観が一変し、「とりあえず行ってみたい!」という気持ちになり、 
単身フランスに渡り、期待と不安を胸にパリに到着した。 
幸運にも働く職場に恵まれ、フランスの文化を体感する事ができた。 
その頃の経験は今でも僕のお菓子作りの原点になっている。 
年齢を重ねるとともに、沖縄の歴史や文化、食や民芸にも興味を持つようになり、 
最近は夏のビーチよりも、春に博物館や美術館、工房を訪れる事が増えた。 
今では大嶺實清さんの器、おおやぶみよさんのグラスは 
日々の暮らしに欠かせなくなっているし、 
沖縄の食材である黒糖や泡盛、シークワーサーなどもお菓子に使うようになった。 
僕の中でフランスと沖縄が自然にチャンプルされてきた感じだ。 
なかたに亭では、開店当初からフランスの銀器に北欧の食器というスタイルだったが、 
今春の本店のリニューアルの機会に日本の食器も使ってみようと思い、 
まずは沖縄に出かける事になった。
沖縄の器に盛られたお菓子やショコラをどのように感じていただけるのか 
今から楽しみになってきた。 
中谷哲哉